新しい試みとして、Y’sの完成物件を住宅建築に造詣の深いプロライターの方に、客観的な目線を交えて、論評をして頂く企画内容になります。
詳細の説明などは、Y’sにて補足をさせて頂きます。
今後も自社目線での解説や紹介だけでなく、住まい手の目線でライターの方の解説をお楽しみ頂くつもりです。
筆者紹介
中村謙太郎 まちなかで土壁の家をふやす会 事務局 コチラ⇒
住宅を中心とした建築専門のフリーランス編集者。1992~2010年『住宅建築』、2010~2013年『チルチンびと』編集部に在籍。
一貫して民家研究と町並み保存に取り組んだ建築史家の伊藤ていじは「民家はその土地の文化の身分証明書のようなものだ」と語っていた。
ならば土地の気候風土を読み取り、できるだけ近くで手に入れられる自然素材を用い、なおかつ現代の暮らしへの配慮を欠かさないこの家こそ、現代の民家と呼ぶにふさわしいではないか。
建築史や民俗学の世界で民家とは、江戸時代までの農家や町家を指す。
いずれも、その土地の気候風土を反映した“つくり”の、職住一体の住まいであった。
ならば現代の民家とは、どのようなものか。
たとえば、ここに紹介する住まいのことではないだろうか。
現代民家のたたずまい
敷地は、新しく分譲された住宅地の一角にある傾斜地で、周囲にはハウスメーカーの無個性な住宅が立ち並ぶ。
その中にあって、切妻屋根と西側に伸びた下屋がつくるシルエット。石積みのささやかな擁壁、そして植栽の組み合わせは、いかにも風情があり、見る者をなごませる。
このデザインの意図がどこにあるのか、設計と施工の両方を担った(株)Y’s代表・山本康彦に聞くと、「気候条件と求められる機能に従っただけです。切妻屋根にしているのは、納まりやすい形状だからですし、軒の出を深くしているのは木造住宅であれば当たり前のことです。デザインから決めることはありません」ときっぱり。
まさに現代民家のつくり手にふさわしい一言だ。
周囲にこの姿勢を見習う家が一軒でも増え、新たな風景が生まれたら、何と素敵なことだろ
左官職人が住む家
玄関口に立つ門塀は、「塗り版築」という左官の技法で仕上げられている。版築とは型枠に敷き詰めた土を叩き締め幾重にも積み上げる、手間のかかった技法のことで、その地層を思わせる表情を鏝で再現したのが、塗り版築である。
これはY’sが手掛けたものではなく、左官職人である住まい手が自ら塗った。
つまりプロの職人が自宅建設にあたって自らの理想を実現してくれるY’sを選んだのだ。
住まい手は家本体の左官工事にも参加し、慣れない木摺り土壁を相手に奮闘したという。
自分が仕上げた土壁の家は、きっと住み心地がいいに違いない。
半外部空間~板倉の玄関ポーチ
建物西側の片屋根が伸びた下屋空間は4畳ほどの玄関ポーチ。片屋根を支える壁は柱と柱の間に板を落とし込んで構造壁にした板倉になっている。
ここだけ板倉としたのは、左官職人である住まい手が練習で何回でも塗り直せるという機能上の理由である。
しかも、これだけの広さがあれば、仕事道具が置けるのはもちろんのこと、自転車を置いたり、雨天時に帰宅した際に傘を広げておいたりと、幅広い用途に使える。
いわば第二の屋内といえる半外部空間なのだ。
板倉工法:壁材に厚板を用い柱間に板を落とし込む木造建築の伝統工法。 作業内容から、落とし板倉、落とし込み板壁工法とも呼ばれる
土壁:中塗り仕舞い(土壁のまま 仕上げ無)
風通しに役立つ玄関網戸
換気と湿気対策のために自然の力を利用する風通しは、住宅にとって効果的な省エネ対策である。
機械に極力頼らなくて済むよう工夫されたこの家では、風通しの目的で玄関引戸の室内側に木製網戸を取り付けてある。
玄関引戸を開け網戸だけ閉め、風の通り道である和室の建具を全開にすれば、家の中を風が通り抜け、室内を快適に保つことができるのだ。
網戸状態のプライバシー対策も十分。玄関正面の下屋には簀の子状のスクリーンを設置しており、風は通っても視線は通らない工夫がなされている。
住まいを快適に保つ仕掛けが最新機器ではなく木製網戸というのが、味があって素晴らしい。
Y’sの玄関引戸、網戸は全て特注自社造作
玄関内部を区分けする間仕切り
かつて格式ある構えの日本家屋は来客を迎える表玄関と日常使いの裏玄関を使い分けた。その歴史をふまえ、この家の玄関にはちょっとした工夫がなされている。
というのも、メインの玄関と靴棚のスペースとの間に間仕切りがあり、来客はメインの玄関で靴を脱ぐ。一方住まい手は、玄関土間が靴棚の前まで続くので、土足のまま靴棚のスペースまで進むことができる。これが表玄関と裏玄関の区分けを意味しているのだ。
こうすれば、メインの玄関をきれいに保てるので、突然の来客でも慌てる必要がない。
こうしたアイデアは中々出るものではない。
地域に根差し、暮らしを支えてきた工務店の経験がなせる技である。
鍵置場のニッチ・床から天井まで6角形手摺 何気ないが玄関には重要なアイテム
玄関と階段を離す理由
従来の日本家屋は中廊下式といって中央の廊下から各室にアクセスする配置が多かったが、敷地の広さに限りがある現代住宅は、廊下をなくし、部屋どうしを直接つなげて、広い空間を確保する場合が多い。
この家の1階も中央のリビングがすべての部屋とつながっている。
そして北側には一直線に水回りが並び、北西から東に向けて、キッチン、トイレ、階段をはさんで洗面・脱衣、浴室が並ぶ。
西側には玄関と勝手口があり、勝手口から入るとパントリーを介してキッチンへとつながる。玄関からリビングに入ると正面に和室が見える。
ここで重要なのは、階段が1階玄関に面しておらず、リビングの前を通って2階に上る配置になっていること。
一見、動線的には効率が悪そうだが、あえて玄関と階段の間にワンクッションおくことで、必然的に、帰宅時はキッチンやリビング内にいる家族と目を合わせることになる。それだけでも、十分に家族どうしのコミュニケーションのきっかけになる。
動線は効率さえ良ければいいというものではないのだ。
玄関~リビングへ
共有部であるリビングを中心として、各室への動線が広がる
リビング~和室
リビング~キッチン デスクスペース
その土地の文化の身分証明書
一貫して民家研究と町並み保存に取り組んだ建築史家の伊藤ていじは「民家はその土地の文化の身分証明書のようなものだ」と語っていた。
だとすれば、土地の気候風土を読み取り、できるだけ近くで手に入れられる自然素材を用い、なおかつ現代の暮らしへの配慮を欠かさないこの家こそ、現代の民家と呼ぶにふさわしいではないか。
私には、そう思えてならない。
中村謙太郎
いかがでしたでしょうか?作り手が手掛けさせて頂いた建物を自ら論じるのでは無く、見識のある他者
に客観的に論じてもらう企画でした
これからも本企画にて弊社事例をご紹介していきたいと思います。
有難う御座いました。
以上
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